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事例番号は前出の表に対応しています。

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事例11

  • 東京地方裁判所立川支部判決/平成21年(ワ)第2609号
  • 平成22年12月8日
  • 請求額4672万9945円/請求棄却。
  • デイサービスの利用者が食事中に誤嚥し死亡した事案

デイサービスの利用者が昼食時に食事を誤嚥し死亡したという事案です。誤嚥ケースがほぼ特養・老健等の入所型である中で、舞台がデイサービスである点で大変珍しく、事後謝罪が論点となっている点でも参考になる一例です。

(1)利用者の状態

 男性 81歳 要介護度5 四肢麻痺 認知症 糖尿病、パーキンソン症候群
 平成19年10月6日から週2回、平成20年7月8日以降は週3回被告施設に通所していた。

(2)事故態様

 平成20年12月16日、Aは個別機能訓練、口腔機能訓練を受け、午前中は普段と特に変わりはなく過ごし、12時ころデイルームの3つある丸テーブルの1つを他の6、7名の利用者とともに囲み、「いただきます」の発声で食事を開始した。同日の被告施設の利用者はAを含めて合計23名であり、要介護度は要支援1から要介護5まで様々であったが、要介護5はAを含めて2名であり、食事について介助が必要な者はいなかった。
 当日の食事は、マグロの味噌焼き、揚げ物、青菜、漬け物等、利用者の状態に応じて専門業者から取り寄せた高齢者用の食事であり、Aについては糖尿病のためご飯を減らして茶碗に盛りつけ、味噌汁は少なめにしてマグカップで提供していた。
 当時職員は5名配置されており、デイルームには、B介護員とC看護師が残って全体を見守りながら利用者の希望に応じておかずをほぐしたり、指の力が弱いためにミニソースの蓋をはずしたりしていた。他の3名は厨房に入っていたが、電子レンジはデイルームにおいてあったため、その3名も出たり入ったりしていた。
 食事開始直後、Bが、お茶を飲もうとしていたAの手が震えるような不安定な感じであるのを発見し、Aに「お茶飲まれますか」と声をかけたところ、返事がなく、Aはもぐもぐしているような状態であったが、その後、大きなしゃっくりをしてぎくっとし、痙攣と震えが起こり唇が青くなった。これらは一瞬のことであり、Bとしては初めて見る異常な状態であったため、Cに「様子がおかしいですよ」と声をかけた。Cは、12時5分ころ、Bに声をかけられたので、そちらを見たところ、Aの顔面が蒼白であり、様子がおかしいことから声かけをしたが反応がなかった。


(3)事故後の経緯

 CはすぐAの入れ歯を外し、口の中の物を取り出そうとしたが出てこなかった。そこで、Cは、その場でタッピング(背部殴打法)、ハイムリッヒ法(斜め上方ヘの押し上げ)を実施したが、反応がなかった。Bは、CがAの対応に入った後は、他の利用者の対応に入ったが、厨房との間を出入りしていた看護師や介護員もAに対する対応の応援に入り、12時6分ころ、Aをデイルームから事務室に移動し、身につけている時計や上履き等を外し、誤嚥用チューブで吸引を実施して青菜、まぐろ、血液を吸引し、被告施設ED、人工呼吸も実施、継続し、並行して救急通報した。12時17分ころ、救急車が到着し、救急隊員の心肺蘇生措置によりAの心拍は再開し病院へ搬送されたが、意識が戻らないまま死亡するに至った。

(4)判決文ハイライト

 「B及びCは、その役割を的確に果たしており、他の利用者に気を奪われてAの飲食状態の見守りを怠ったとは認められず、過失は認められない。
 被告の職員の配置は介護保険法等の関連法令に適合したものであり、本件利用契約において特に介護保険法等の定める基準を上回る介護が約定されていたとは認められない。したがって、本件事故当日、23名の利用者に対して専ら食事の見守りを担当する職員として配置されていたのが介護員1名と看護師1名であったことが本件利用契約に基づく債務の履行を怠ったものとは認められない。また、被告施設の職員らは、本件事故当時、それぞれの配置された状況のもとでAのためにできるだけのことはしたものと認められる。したがって、被告に本件利用契約に基づく債務の不履行は認められない。
 なお、Aの要介護度は、最も重い5であったが、判断力は全く正常で、言語や咀嚼、嚥下に全く問題がなくとも、四肢麻痺であれば最高度の要介護5となり得るのであり、Aが要介護5であったことは、本件における被告の注意義務の程度を直接左右する要素とはならない。
 また、Aは、糖尿病、パーキンソン症候群、認知症であったが、その関係で嚥下障害があるとの診断を受けていたような証拠はなく、通常食を提供することについては、平成19年11月17日の時点で原告家族も同意していたことである。平成20年10月23日にケアマネージャーが作成したサービス担当者会議の要点においても食事の提供方法については言及されておらず、老人保健施設における通所リハビリテーションサービス計画書・個別リハ計画書においても同様であるから、Aの家族がAを朝Aに送り出す際に担当職員に食事の際にむせたことがあったことを告げたことがあったとしても、被告が本件事故当時Aに通常食を提供していたことに過失があるとはいえない。」

(5)認定損害額の主な内訳

 0円

(6)外岡コメント

 原告ら遺族は、「被告施設の施設長が当初は責任も認めていたにもかかわらず、後日被告が法的には責任がないという態度を明らかにしたこと」を不当と主張しましたが、裁判所は「施設長が謝罪の言葉を述べ、原告らには責任を認める趣旨と受け取れる発言をしていたとしても、これは、介護施設を運営する者として、結果として期待された役割を果たせず不幸な事態を招いたことに対する職業上の自責の念から出た言葉と解され、これをもって被告に本件事故につき法的な損害賠償責任があるというわけにはいかない。」としてこれを退けています。「結果として期待された役割を果たせず不幸な事態を招いたことに対する職業上の自責の念」という言い回しは、テクニック的な話に過ぎませんが施設側としては「使える」フレーズであるといえるでしょう。