

介護裁判で争われる事故類型は、その殆どが「転倒」と「誤嚥」に大別されますが、以下の表は、介護保険制度が始まった2000年以降、介護現場(障害者・保育の施設は含まれません)で発生した事故を類型別に整理したものです。グレーに色づけされている事例は、最終的に事業者側に責任なしとされたものです。
転倒と誤嚥を比較すると、概ね以下の傾向があることが分かります。
- 1. 転倒ケースでは、損害賠償責任が認定されやすいが賠償額は比較的少額である。
- 2. 誤嚥ケースでは、損害賠償責任が否定されることも多いが、認められるとその賠償額は比較的高額である。
このような違いが生じる理由は、次のような違いによるといえます。
転倒 | 誤嚥 | |
---|---|---|
場所 | 無制限 | 主に食堂 (近時は個室で一人食事をする場合も)。 |
時間帯 | 無制限 | 主に食事時。 |
態様 | 無制限。移動介助中から夜間の単独歩行まで幅広く、職員がその場にいない場合も多い。 | 主に食事中。職員が付き添い見守っている状況。 |
予防方法 | 適切な介護計画を立て、見守りや介助が必要であれば極力実施。手すりや柵などの環境の整備。 | きざみ食やとろみ等の下ごしらえ、嚥下体操、見守り、食事時の体勢等を観察。 |
損害の拡大防止策 | 転倒から骨折等の被害に至るまでは一瞬。気付いたときには手遅れ。 | 窒息を発見してもハイムリック法、指を入れて掻き出し、異物吸引や人工呼吸等の措置による救命が可能。 |
転倒は防止が困難である一方、誤嚥は生じる条件が決まっており対処が比較的容易であるといえるでしょう。それを受けて裁判では、「転倒の場合、予見可能性が否定し難い以上、結果論的見地から責任を認めるが、損害額を低く抑えることでバランスを取っている。一方で誤嚥の場合は、なすべきことをしたか否かが比較的明白に判断できるため、白黒がはっきり付けやすい」という傾向があるといえるでしょう。
それでは、以下個別に事例を紹介します。