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事例番号は前出の表に対応しています。

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事例12

  • さいたま地方裁判所判決/平成18年(ワ)第2714号
  • 平成23年2月4日
  • 請求額2463万9285円/うち1770万円を認容。
  • 特別養護老人ホームにおける入居者のおむつ誤嚥による死亡事案

特養の入居者が、紙おむつを異食した結果誤嚥し死亡したという事案です。食べ物以外の異物を口にするといういわゆる異食についても、実務上は比較的多いケースと思われるものの、誤嚥系の裁判例の中では本件が唯一であり、先例として貴重なものといえるでしょう。

(1)利用者の状態

 女性 78歳 重度の認知症
 紙おむつなど食物以外のものを口に入れてしまう異食癖があり、このことは被告においても認識していた。
 平成16年2月1日にAが本件施設に長期入所した後も、Aは、おむつを外したり尿取りパッドや紙パンツ等をちぎったりすることが頻繁にあり、多数回にわたり尿取りパッド、おむつ、紙パンツ、ガーゼ、薬の袋、便、湿布等を口に入れるという異食行為に及んだ。これらのうち、平成16年12月12日の異食行為は、ちぎった尿取りパッドを多量に口に入れるというものであり、本件施設の職員がAの口からこれを取り出そうとしても、同人が暴れてしまうため、二人がかりで取り出し、取り出した後も同人に冷や汗や顔色不良などの症状がみられたので、酸素吸入の措置が採られた。また、平成17年1月14日の異食行為も、紙パンツを多量に口に入れて喉に詰まらせるというものであり、本件施設の職員がこれをかき出した。
 本件施設の職員は、Aにおむつを使用する場合には、原則的には布おむつを使用することとしていたが、同人の臀部や腰部に褥瘡が生じたり、陰部にかぶれが生じたりしたこと、布おむつでは吸水性が高くないことなどから、肌の状態が悪いときには紙おむつを使用させるなど、同人の皮膚の状態に応じて布おむつと紙おむつを併用していた。

(2)事故態様 (3)事故後の経緯

 同月20日午後5時45分ころ、本件施設の職員が食事の配膳と介助のため、Aの居室を訪れたところ、Aが身に着けていた介護服の下肢部分が開いており、紙おむつが破れているような状況であった。そして、Aの口に何か詰まっている様子であったため、職員は直ちに看護師を呼びに行った。
 准看護師は、直ちに応援を呼ぶように指示するとともに、異物をAの口からかき出し、その後、応援に来た他の職員と共にAをベッドから床に降ろし、心臓マッサージを実施した。このときAの脈や呼吸は既に停止していた。Aに対する心臓マッサージは救急隊が到着するまで続けられた。Aは救急車で東鷲宮病院に搬送されたが、同日午後6時42分、死亡した。Aの死因は、誤嚥による窒息と診断されている。


(4)判決文ハイライト

 「Aが介護服の下に着用していた紙おむつ等を取り出すことができたのは、ファスナーの閉め方が不十分であったりファスナーが故障していて容易にファスナーが開く状況にあったか、生地の劣化があって介護服が破れたといった介護服の使用方法が不適切であったことが原因である蓋然性が高いというべきであって、本件事故はこのような介護服の使用方法が不適切であったことによって発生したものと推認するのが相当である。
 本件事故当時、Aは紙おむつ等をちぎって口に入れるといった異食行為を繰り返しており、これによって同人が窒息死に至ることがあることも具体的に予見される状況にあったのであるから、被告においては、介護服を着用させるに当たってはこれを適切に使用すること、すなわち、故障や劣化がないかどうかを点検して、そのような不具合のない介護服を着用させ、ファスナーを完全に閉じることによって、Aが紙おむつ等を取り出すことがないよう万全の措置を講ずる注意義務を負っていたというべきであるところ、被告は、この注意義務を怠り、介護服を適切に使用せず、そのために本件事故に至ったものであるから、不法行為に基づき、Aの死亡によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。」

(5)認定損害額の主な内訳

 慰謝料1500万円 遺族固有の慰謝料100万円 葬儀費用30万円

(6)外岡コメント

 原告である遺族は、そもそも布おむつではなく紙おむつを使用していたこと自体につき被告施設の責任を追及しましたが、判決はAが当時疥癬にり患していたこと等を理由にこれを認めませんでした。しかしながら最終的には、容易にファスナーが開いてしまう介護服を着せていたと「推認」し、被告施設に責任ありとしています。ここで推認とあるのは、Aが当時着用していた介護服そのものが、病院から被告施設に返還されたにも拘わらず被告施設がこれを処分してしまい現存しないと回答し証拠提出しなかったためなのですが、この点については不自然さが感じられるところです。あってはならないことですが、もし被告側が証拠隠滅を図ったのであるとしても、最終的には被告不利に認定されてしまうということが分かる判例といえるのではないでしょうか。