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事例番号は前出の表に対応しています。

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事例4

  • 名古屋地方裁判所/平成14年(ワ)第2028号
  • 平成16年7月30日
  • 請求額3421万2160円/うち2426万4700円を認容。
  • 特別養護老人ホーム内のショートステイの利用者が、職員の介助を受け昼食中、こんにゃくとはんぺんを喉に詰まらせて窒息死した死亡事故につき、損害賠償請求を認めた事例

施設内で開催された「年忘れ会」において、昼食として提供された「助六寿司」や「おでん」というメニューにつき誤嚥事故が発生したという事案です。

(1)利用者の状態

 男性 75歳
 初めて被告施設のショートステイを利用した平成12年7月ころから死亡した平成13年12月まで、歩行はできず介助により車椅子を利用し、食事、排泄、衣服の着脱、寝返り、起き上がり、座位保持にも介助を要する状態であり、義歯(総入れ歯)を装着していた。また、会話は、やや困難で、声かけが必要であり、理解力及び記憶力がやや低く、時間に関し見当識喪失があり、場所についても見当識の一部喪失が見られるなど、軽度の痴呆が存した。
 本件事故が発生した6度目のショートステイ利用時の身体状況として、食事の欄のうち、「主」の部分に「常食」と、「副」の部分に「一口大」と記入され、「嚥下障害」の部分には「有」に○を付け、「時々-水分で」と記入されていた。
 平成13年12月16日、被告施設では年忘れ会が催され、入所者に対する昼食として助六寿司やおでん等が提供された。職員は、同日午後0時30分ころ、居室ベッドにいたAを車椅子に移乗させて食堂へ連れて行き、テーブルの脇にAを乗せた車椅子を止め、Aの正面に立ち、中腰でやや見下ろすような姿勢でAの食事の介助をした。なお、当該職員は、Aの他にもう1人の入所者の食事介助を同時に担当していたが、この入所者は、椅子に座って自力で食物を摂取することが可能であったため、職員は、Aの介助に注意をほぼ集中していた。
 職員は、スプーンを用いて食物を小分けして、「次何を食べます」等の声かけをし、Aが口を開けるのを待って食物を食べさせることを繰り返して、Aの食事の介助をした。職員は、最初に助六をAに食べさせた後、おでんの卵、こんにゃく、はんぺんの順でAに食べさせた。職員は、こんにゃく(三角形のもの1切れ)を、底辺約3.6cm・上辺約2cm×高さ約3cmの台形のものと、底辺約2cm×高さ約4.5cmの直角三角形のものの2片に切り分け、はんぺん(四角形のもの1切れ)については約4.8cm×約3cmの四角形のもの3片に切り分けた。

(2)事故態様

 職員は、Aにまずこんにゃく2片を食べさせ、次いで、はんぺん1片を食べさせた後、介助を担当していたもう1人の入所者に目を向けて声かけをし、Aに目を戻したところ、Aが苦しそうな表情で「うー」というような声を発しているのを発見した。

(3)事故後の経緯

 職員は、Aののどに何かが詰まったと判断し、口の中を覗いたが何も入っていないように見えたため、左手でAの頭を押さえて身体を前へ倒し右手で背中を叩いてタッピングをしたが、Aの状態は良くならなかった。そこで職員は、他の介護職員に看護職員を呼ぶよう声をかけ、駆けつけた複数の看護職員らがAを逆さにしてタッピングをしたところ、2cm大くらいのはんぺんが2個出てきた。その後、消防署から救急隊が駆けつけ、喉頭鏡とマギール鉗子を用いて、Aののどから、はんぺんと1cm大くらいのこんにゃく1個を除去した。Aは、心肺停止状態で病院に搬送され、同日午後2時26分、窒息が直接死因で死亡した。

(4)判決文ハイライト

 「職員は、Aの口の中にこんにゃくが残っていることを見過ごして、あるいは、Aがこんにゃくを飲み込む前であったにもかかわらず、飲み込んだかどうか(嚥下動作)を確認しないで、はんぺんを食べさせたものと推認することができる。
 Aが介助を要する当時75歳の高齢者であり、義歯(総入れ歯)も装着していたこと、家族からAの飲込みが悪いこと等が被告施設の看護職員に告げられ、入所時一般状態調査票ないしショートステイ用一般状態記録にも、Aに嚥下障害がある旨が記載されていたこと、こんにゃくは、食べにくく、のどにつまらせやすく嚥下障害の患者や高齢者に向かない食物であると指摘され、はんぺんと同じ練り製品であるかまぼこも嚥下障害の患者に向かない食物であると指摘されており、これらのことは市販の書物や公開されたホームページ等でも紹介されていること等を考慮すると、Aにこんにゃくやはんぺんを食べさせるに際しては、Aに誤嚥を生じさせないよう細心の注意を払う必要があったことは明らかであって、職員は、こんにゃくを食べさせた後、Aの口の中の確認及びAの嚥下動作の確認をする注意義務を負っていたというべきである。したがって、職員が、これらの確認をしないまま、こんにゃくに続いてはんぺんを食べさせたことは、不法行為法上の過失に当たる。」

(5)認定損害額の主な内訳

 慰謝料2100万円 葬儀費用106万円

(6)外岡コメント

 一口ずつ咀嚼・嚥下を確認しながら口に運んでいたかが争われた事案ですが、被告側の担当ヘルパーは「咀嚼が終わり、口の中に何も入っていないことを確認し、声かけをしてから、Aにはんぺんを食べさせた」と法廷で証言しました。しかし裁判所は、「同証人は、見た目で見える範囲で確認した、口の奥まで確認できたかどうかは分からないとも証言しているところ、職員が中腰でAをやや見下ろすような姿勢で食事の介助をしていたものであることを考慮すると、口の中を確認したつもりであったとしても、食物が口の中に残っていたことを見過ごした可能性は十分に認められる。また、証人は、被介助者がのどでごっくんというふうに飲み込むのを確認するとも証言するが、他方で、今回のAの場合は、はっきりと記憶していないとも証言しているのであり、同証人の証言をもってAの嚥下動作を確認したと認めることはできない。」としてこの証言を不採用としました。確証をもって証言したか否かだけで過失の有無が決せられたとは限りませんが、職員以外に目撃者がいない以上仕方のないこととはいえ、大変危うい認定根拠であるといえるでしょう。さりとて室内に常時監視カメラを設置する訳にもいかず、悩ましいところです。