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事例番号は前出の表に対応しています。

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事例6

  • 松山地方裁判所判決/平成18年(ワ)第150号
  • 平成20年2月18日
  • 請求額2217万1750円/うち1318万6250円を認容
  • 特別養護老人ホームにおける入居者のやけど及び誤嚥による死亡事案

特養の入居者が、入浴時に誤って熱湯に入れられやけどを負い、かつ食事中に誤嚥し死亡したという事案です。

(1)利用者の状態

 男性 97歳
 Aは平成12年から被告施設に入所したが、平成16年4月23日、入浴の際、被告職員の不注意により熱湯の浴槽の中に入れられ、背腰部、両上肢、両下腿、両足に熱傷を負い(本件やけど事故)、両肘について熱傷二度、背部、臀部、両上肢、下肢一部に熱傷一度の傷害を負った。
 入院後やけどの経過は順調であったが、平成16年6月23日、突然不整脈、意識消失の状態となり、急性心筋梗塞の診断のもとに治療が行われ、同年8月31日ころには左大腿骨骨折のけがをしたこともあって、病院を退院して本件施設に戻ったのは同年12月7日となった。
 A及びAの家族は、医師から自身の状態について「加齢にともなうもの又は小さい脳梗塞、脳血管障害等にて食事の飲み込みが悪くなってきているようです。今後も嚥下障害の進行及び誤嚥性肺炎の発症の可能性があります、このまま経過観察を行いますが、今後肺炎等の発症があれば、入院加療の可能性もあります。」という内容の説明を受け、この説明については被告職員も聞いていた。
 Aは事故の前日まで、食事をするもムセ込みがあり、途中で中止してしまうことが多かった。
 Aの担当職員Bは、平成15年9月から介護職の契約職員として勤務しているが、それまでに介護職としての経験はなく、本件施設においても嚥下障害のある入所者に対する食事介助についての教育、指導を体系的に受けたことはなく、少量ずつ食べてもらう、しっかり飲み込んだことを確認するという点について注意するようにと口頭で言われているだけであった。
 平成17年7月18日、Bは午前7時40分ころから約40分かけて別の人の朝食介助を行い、午前8時20分ころからAの朝食介助を始めた。

(2)事故態様

 Aの朝食の献立は、主食はおもゆ、副食はきゅうりともやしの酢の物をミキサーにかけたもの、みそ汁は具の白菜、しめじ、ゆずをミキサーにかけ、トロメイクという粉末のとろみ調整食品であんかけ程度のとろみをつけたものであったが、Bは、大きめのスプーンに2分の1から3分の2の量をすくい、一口目は副食、2口目から4口目はみそ汁を、約30度起こされたベッドの中で後頭部を枕につけた姿勢をとっているAの口に入れたところ、同人はムセ込んでしまい、BはAの体を起こし加減にしてタッピングをしたり、口の中に指をいれたりしたが何も出てこず、Aの顔色が悪くなってしまい、他の職員に吸引器による吸引を依頼した。

(3)事故後の経緯

 准看護師は、Aについて吸引器での吸引を始めたが、10cc程度のものが吸引できただけで、顔面は蒼白で呼びかけにも反応がないので、病院に搬送することとした。
 Aは搬送時には呼吸停止、血圧もなくほとんど心肺停止状態であり、気管内挿管、吸引、心マッサージなどの措置によって心拍が再開したが、意識レベルはもどらないまま8月8日死亡した。

(4)判決文ハイライト

 「Aの状態からすれば、被告としては実際に同人の食事の介助を行う職員が①覚醒をきちんと確認しているか、②頸部を前屈させているか、③手、口腔内を清潔にすることを行っているか、④一口ずつ嚥下を確かめているかなどの点を確認し、これらのことが実際にきちんと行われるように介護を担当する職員を教育、指導すべき注意義務があったものというべきである。
 しかし、被告は上記のような教育、指導を特に行っておらず(担当職員は少量ずつ食べてもらう、しっかり飲み込んだことを確認するという点について注意するようにと口頭で言われただけである。)、担当職員がAについて朝食介助を行った際にも、①覚醒の確認は十分に行っておらず、②頸部を前屈させるということは全く行っておらず、③手、口腔内を清潔にするということも行っていないのであるから、被告は上記の注意義務に違反したものというべきである。」

(5)認定損害額の主な内訳

 やけどについて
 入院雑費17万円 慰謝料180万円
 誤嚥について
 A本人の慰謝料1800万円 遺族固有の慰謝料200万円 弁護士費用120万円

(6)外岡コメント

 本件では珍しくやけどについても損害賠償が認められており、比較的高額が認定されています。食事時に頭部を前屈させていなかった点が直接の原因となったかと推測されますが、裁判例は具体的には指摘をしていません。ボリュームをみても比較的あっさりとした裁判例といえます。