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裁判の仕組み

事例番号は前出の表に対応しています。

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事例7

  • 東京地方裁判所判決/平成18年(ワ)第3067号
  • 平成20年3月27日
  • 請求額2800万円/請求棄却。
  •  特別養護老人ホームの入所者が食事後に容体急変し死亡した事案

 特養での朝食後、食事を完了したと判断したヘルパーが他の入居者の介助後に戻ったところ、当該利用者が急変していたという事案です。原告側の主張が客観的証拠により悉く覆されている点が特徴的といえ、外岡もセミナー等で日々の記録の重要性を説く好例として用いています。

(1)利用者の状態

 男性 85歳 要介護度5 認知症 嚥下については、むせるため見守りが必要で、食器を動かすことができず、スプーンを持った手首の動きだけで食物を運ぶ状態。
 平成14年1月15日、被告施設に入所(6階の居室)
 平成16年12月、嚥下能力低下により、看護室があり迅速な看護が受けられる3階へ移動した。

(2)事故態様

 平成17年1月23日(事故当日)、のメニューは、全粥(125グラム)、味噌汁、はんぺん煮、小松菜おかか煮、香の物であり、これらをミキサーにかけてペースト状で提供された。またエンジョイゼリーにポカリスエットの粉末を溶かし、とろみを加えて提供された。
 Aは午前8時頃、3階中央の食堂で、他の入所者3人(いずれもほぼ自力で食事摂取が可能)と一緒に朝食を始めた。その際介助職員はBの他二名がいた。そこでBは、他の入所者には声掛けをする程度で、Aの隣でほぼ付きっきりの状態で食事介助を行った。Bはスプーンでペースト状の食べ物をすりきりにした状態でAの口に入れ、喉仏や口の中を目視で確認して食物を飲みこんだことを確認した後、再びスプーンに盛って食べさせた。約1時間後にAは完食し、最後にエンジョイゼリーを食べて朝食を終えた。
 Bはその後も3分程Aの口や喉仏の動きを確認しながら様子を見守ったが、その間、むせ込みや喉をごろごろとさせることもなかったので、3階のスタッフルームの職員に食事完了の旨報告した。その後Bは、他の入所者をそれぞれの居室に戻すため、5分程Aの側を離れた。そのとき、B以外の職員は食堂にいなかった。
 Bが午前9時15分頃食堂に戻ると、Aが顔を上にあげて、口の脇からエンジョイゼリーの液が出た状態でぐったりしているのを発見した。なお、Aには暴れた形跡や苦しそうな表情は見受けられなかった。

(3)事故後の経緯

 Bはすぐに「看護師さん」と叫び、看護師が駆けつけたが当時既にAの意識および脈は無い状態であった。同看護師はAの血中酸素濃度を測定した上、酸素ボンベで酸素吸引の措置をとりながら、病院に連絡した。病院に搬送されたAは、既に心肺停止の状態であり、救命救急処置がとられたが午前10時5分に死亡した。

(4)判決文ハイライト

 「本件事故の際、Bは、Aが最後のエンジョイゼリーを口に入れた後、口や喉仏の動きを見ながらAが食物を嚥下したことを確認し、3分間Aの状態を見守ったが、特に異常はなかったのであり、Aは食事を終了していたものと認められる。
 これに対し原告らは、BがAのそばを離れた時にはAの食事は終了していなかった、口の中に手を入れて確認しなければ口の中に食物をため込んでいるか確認することはできないし、そもそもBが1時間以上もつきっきりで食事介助を行ったかも不明であると主張する。しかしながらBは、介護福祉士の資格を取得し、約6年間の老人介護の経験を有し、Aの介助も担当したことがあり、同人の健康状態を十分に認識していたと認められる。このようにBは、介護についての専門知識と経験を有していたのであるから、口の中に指を入れて確認しなければ、ため込みの有無を判断することができないとはいえず、口や喉仏の動きを見ることで判断することも可能であったと認めることができる。
 原告が提出するAの死亡診断書には、Aの直接死因として食物誤飲による窒息死との記載があり、これを記載した医師は、朝食後の急変であること、搬送された時に口腔内より食物が吸引されたこと、寝たきり、または脳梗塞の既往歴があり誤飲しやすいと考えたこと等を挙げる。
 しかしながら同医師は、Aの死因として食物を誤飲して窒息したものと推定されるとしながらも、推定とは「弱い推認」であり可能性の一つにすぎない。また、急性心筋梗塞、重度不整脈、脳梗塞、窒息、重度脳血管障害等の可能性も考えられるとし、さらに本件事故当日は休日で、X線やCTスキャンによる検査や血液検査等の検査ができない状況であったことから、食物誤飲による窒息死と記載することが最も無難であると判断して記載したものであると供述している。
 食物が吸引された原因としては、心臓マッサージによって胃の内容物が逆流した可能性等も考えられるところであり、同医師もこれを認めた上で、Aには様々な死因が考えられると供述しているのであるから、誤飲による窒息死と認める根拠としては不十分である。
 さらに、Aは嚥下能力が減退し、ため込み、むせ込み、嘔吐等がみられたが、本件事故当日の食事はペースト状の食事やエンジョイゼリーなど嚥下しやすい性状のもので、Bがスプーンで一杯ずつ、1時間以上かけて食事介助をしていたのであるから、嚥下能力が減退していたとしてもAが誤飲した可能性は低いと考えるのが相当である。また、Aが意識不明となった直後に駆け付けた看護師は、Aが天井を見るような感じで暴れた様子もなく、苦しそうな表情もしていなかったが、誤飲による窒息であれば、むせ込んだりして、体も動くし、苦しそうな表情になるはずである等と供述するが、同供述は看護師としての知識や経験に基づいた具体的かつ詳細な供述であり信用性が高い。
 …以上の事実を併せ考えると、Aは、BがAの側を離れた際には、すでに食事を終えていたと認めるべきであり、Aが食物を誤飲して窒息死したと認めることはできない。
 そしてAの直接の死因は、本件全証拠によっても、結局のところは不明であると言わざるを得ないが、少なくとも、原告らの主張を認めることはできない。」

(5)認定損害額の主な内訳

 0円

(6)外岡コメント

 一人の入居者に1時間もかけて付きっきりで食事介助をする、ということは実務ではそう成し得るものではないと思われるところ、本件の担当ヘルパーBさんは、食事完了後も3分間もかけて完食を確認しており、最終的にはこの徹底した観察が施設の責任を否定する根拠となりました。人員配置はあらゆる施設での悩みの種ですが、やはり法定基準以上の配置をすることが突発的事故の予防に資することは間違いが無いようです。

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