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裁判の仕組み

事例番号は前出の表に対応しています。

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事例8

  • 東京地方裁判所判決/平成20年(ワ)第34440号
  • 平成22年7月28日
  • 請求額2250万円/請求棄却
  • 介護付有料老人ホームの入所者が食事中に窒息し死亡した事案

老人ホームでの夕食時、他の入居者の介助中にヘルパーが気づいたところ利用者が意識喪失していたという事案です。典型的な誤嚥事例ですが、最終的には施設側の予見可能性が否定され棄却さています。その他本件では、「監視カメラによりビデオテープにAの誤嚥の状況が録画されていたのに、その録画を消去した上、原告ら遺族に対し、謝罪の態度を示すことなく不誠実な対応をした」という点も争われました。

(1)利用者の状態

 男性 95歳 要介護度4 認知症 緑内障により視力薄弱
 平成19年3月18日被告施設入所
 本件施設では、本件施設の一階食堂に入居者全員が集まって食事をすることとなっていた。Aの食事の内容は常食とされており、時折、介護職員による食事介助を受けることがあったものの、通常は介助を受けず自力で食事をしていた。

(2)事故態様

 平成19年9月22日、Aを含む本件施設の入居者は、夕食のため、介護職員の誘導により、食堂に集まった。
 食堂に集まった入居者は約90名であり、7名の介護職員が配膳や、介助を要する入居者の介助、入居者全体の見守りなどに従事し、看護師2名が、入居者への薬の配布等を行っていた。
 同日も、通常どおり、介護職員による嚥下体操の指導が行われた後、入居者に対する配膳が行われ、食事が開始された。Aは、本件施設の食堂のほぼ中央部に車いすに座って席に着いており、そこから1メートル程度離れた場所で、介護職員が他の入居者の食事の介護に当たっていた。
 同日午後5時55分から午後6時の間ころ、Aから2メートル程度離れた場所で他の入居者の食事の介助に当たっていた上記介護職員が、介助を終えてAの方向に目を転じたところ、Aが、車いすに座ったまま、後方にのけぞるような姿勢で顔を天井に向けてぐったりしているのを発見した。

(3)事故後の経緯

 同介護職員は、付近にいた看護師に声を掛け、同看護師が直ちにAの下に駆け寄ったが、Aは顔面蒼白で呼吸がなく、脈拍も感知できず、意識を失った状態であった。
 被告の介護職員や看護師らは、救急車を手配するとともに、Aを本件施設一階の健康管理室に搬送し、Aの口腔内にあった少量の米粒を手や吸引器で除去した上、看護師が心臓マッサージ及び酸素吸入による蘇生措置を行った。
 同日午後6時8分ころ、本件施設に救急車が到着したが、Aは心肺停止状態であり、救急隊員が、Aに対し心臓マッサージを行い、また異物を除去して気道を確保し、人工呼吸を行うなどの応急措置を講じた。
 Aは病院に搬送され、心肺蘇生措置がとられ、一時は自発呼吸がみられたものの、脳の低酸素によるダメージが大きく、同月28日死亡した。

(4)判決文ハイライト

 「入居申込書には、入居者の家族がAの食事介助に関して、食事の内容は常食である旨記載しており、Aに誤嚥のおそれや兆候があるとの特段の記載はない。
 また、Aが本件施設に入居した後、本件事故に至るまでの間に、Aの家族らから、被告に対し、Aに誤嚥のおそれや兆候がある旨の連絡がなされたことを認めるに足りる証拠はない。
 そして、前記のとおり、Aは、本件施設において、常食を提供され、時折、食事介助を受けることがあったものの、通常は自力で食事をしていた。Aが食事介助を受けたのは、本件事故前の約3か月間で10日程度であり、本件施設の介助職員等が記録していた介護日誌や看護記録を見ても、むせやせきを始めとする、嚥下機能の低下をうかがわせる具体的症状が観察されたとの記載は存在しない。
 また、前記のとおり、本件施設においては、入居者は、月に一、二回程度、医師による定期検診を受けており、Aは、定期検診のほかにも、けがの治療や健康診断のため、複数回、病院に通院し、医師からの診察を受けていたが、医師から、Aについて、誤嚥のおそれがある旨の指摘がされたり、誤嚥防止のため、食事内容の変更や食事の際の介助の方法について具体的な指示がされたことはうかがわれない。
 その他、Aに、本件施設に入居後、誤嚥の兆候が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
 以上の状況に照らせば、被告が、Aについて、誤嚥による窒息が生じる危険があることを具体的に予見することは困難であったというべきである。
 そうすると、被告が、本件契約に基づき、Aについて、誤嚥防止のために、具体的に食事の調理方法や食事形態を改善すべき義務や、常時食事の介助を行い、又は食事の開始から終了までを逐一見守るべき義務を負っていたと認めることはできない。
 したがって、本件事故の際、Aは、常食の提供を受けており、被告から、食事内容に関し、嚥下機能の低下に対応するための特段の配慮を受けていたようなことはなく、また、常時食事の介助を受けていたことも、食事の開始から終了までを逐一見守るような措置を講じられていたこともなかったのであるが、これをもって被告が本件契約に基づく義務に違反したとすることはできない。

(5)認定損害額の主な内訳

 0円

(6)外岡コメント

 原告らは本訴において「Aは、常食を自力でとるのは不可能な状態であり、本件施設においても、刻み食の提供を受けていたはずである」と主張しましたが、裁判所は入居申込書や介護日誌、看護記録、受診報告書等の記録には、Aに刻み食が提供されたことをうかがわせる記載がないことからこれを認めませんでした。
 ビデオ録画については、施設は10日間保存後破棄というルールに従い消去してしまったのですが、この点については「本件施設にビデオカメラを設置し、介護サービス提供中に発生したすべての事故に関して、録画されたビデオテープを保存する具体的な義務を課した法令等は見当たらない。また、本件契約に係る重要事項説明書には、「事故発生時の対応」として、被告が、「介護サービス提供中の事故にあっては、十分な検証、原因究明をおこない、再発防止に努め、速やかに行政機関等に届け出る。」旨の記載があることが認められるものの、同記載は、被告の一般的な責務を表明したものであると解され、被告が、原告らに対し、具体的に、本件施設内のビデオテープの録画等の証拠を保全する義務を負う旨を規定したものと解することはできない。」として施設側の責任を否定しました。
 事故後、被告が、原告ら遺族に対し謝罪を行わなかったことや、原告らが申し立てた調停に出頭しなかったこと、調停の席で責任を争ったことなどが、原告らに対する不誠実な対応であり法的責任が生じるとの主張については、「原告らの主張する被告の行為が、直ちに債務不履行又は原告らに対する不法行為を構成するとは解されない。」としてあっさりと否定されましたが、裁判に至る前の時点でメディエーション(中立な立場にある第三者を挟み、両当事者が対話することで関係修復を図る技術)により感情的拗れを多少なりとも修復できなかったものかが悔やまれるケースだったのではないかと推測されます。

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