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実際にあった介護裁判事例
転倒事例の個別検討

事例番号は前出の表に対応しています。

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事例3

  • 福岡地方裁判所判決/平成13年(ワ)第3648号
  • 平成15年8月27日
  • 請求額1340万円/うち470万円を認容。
  • デイサービスでの昼寝から目覚めた後の転倒による骨折事案

 午後1時40分ころ、デイサービス内の静養室において、昼寝から目覚めた後に転倒し、右大腿を骨折した事案です。静養室(畳敷きの上がりかまち状になっているスペース)の段差から転落したという点では、典型的なベッドからの転落と異なり、今のところ唯一の裁判例です。
数十センチの高さから転落するという意味では同一であるところ、本件は施設側に相当高度な見守り義務を課しているといえ、厳しい裁判例の一つといえるでしょう。

(1)利用者の状態

  女性 95歳 要介護度4
 Aはかなりの難聴で、話しかけても日常会話が理解できず、また、厚いメガネを掛けており、視力も落ちていた。脚の力も落ちており、布団で寝た状態から床に手をついて自分の力で立ち上がることはできなかった。しかし、布団で寝ている状態から体を起こし、座る状態になることができ、バランスを崩して転倒することもあったが、そこから、テーブル等に手をついて立ち上がることができた。尿を催したらトイレを探し、膝の痛みがないときは、家の中をうろうろすることがあった。また、平成12年4月下旬に自宅にベットを入れてからは、自分で立ち上がって歩くことができた。
 昼寝のとき、被告従業員が気付くと、Aが折り畳みベットの上に起きて手を叩いて歌を歌ったりしていることもあり、静養室で昼寝をしていて、すぐ起きて上半身を起こすこともあった。Aは、寝返りや、布団の上で寝た姿勢から上半身を起こすこともできた。また、声をかければ、いざって移動することもできた。被告従業員は、そのようなとき、見守るか、後ろから体を軽く支えた。

(2)事故態様

 被告施設は、平屋建てで、食堂兼機能訓練室が54平方メートル、畳敷きの静養室が6.6平方メートル、和室が8.25平方メートルである。機能訓練室部分の隣にある静養室は、床との段差が約40センチメートルあった。静養室の前には、四角いテーブルを囲むようにして、ソファー三個がコの字型に配置され、テーブルのもう一辺のところに一人用椅子が置いてあった。
 事故当時、利用者はAを含めて七名おり、被告従業員丙川及び丁原が利用者の見守りをしていた。当日の利用者は、84歳から102歳の高齢者であり、うち痴呆のある者が原告を含め5名おり、一人で歩行すると転倒の危険のある者が、原告を含め五名いた。本件事故当時、静養室前のソファー2つ及び一人用椅子には、利用者五名が座っており、もう一つのソファーには利用者一名が横になって寝ていた。丙川は、静養室に背を向ける形でソファーに座っていた。利用者は話をしたり、眠ったりしていた。また、ソファーから少し離れたところに、机が置いてあり、そこに丁原が座って、午前中の利用者の状況について記録を作成していた。静養室は、食堂兼機能訓練室とカーテンで区切られ、事故当時、カーテンは半分くらい閉められていた。丁原の位置から静養室の内部を見ることはできない。丙川は、被告代表者からAの状況について説明を受けており、「足が悪くて軟骨が薄いため歩行が困難である」と聞いていた。丙川は、Aが立ち上がると、すぐに両手をもって一緒に歩くようにしていた。
 平成12年11月9日の昼食後、丙川がソファーに座っていたAを、両手を介護しながら静養室に連れていき、寝かしつけた。丙川は、ソファーのところに戻り、カーテンを半分くらい閉めた。そして、静養室に背を向けるような形でソファーに座り、また、他の利用者の側に行ったりした。丁原は、離れた机の前に座り、記録を作成していた。当時、被告施設で利用者を見守っていたのは、丙川と丁原だけであった。
 午後1時40分ころ、玄関で誰かが「こんにちは」と挨拶をしたので、丙川が応対に出た。丁原には見守りを交代するよう声をかけなかった。Aの様子も確認しなかった。そして、丙川が来客に被告施設について、説明をしているときに、「ドスン」と音がしたので、静養室に戻ったところ、Aは、静養室入口付近の段差にやや背を向け、膝を少し曲げた状態で尻をついて座り、「痛い、痛い」と言っていた。

(3)事故後の経緯

 丙川は丁原とともに、Aを静養室の畳の上に一緒に抱え上げ、Aのバイタルチェックや軟膏を塗ったりと応急措置をした。そしてAをシーツでくるんで車に向せ病院に連れていった。搬送先病院では、右膝付近の大腿骨骨折及びその付近の血腫が認められた。

(4)判決文ハイライト

「本件事故までに、被告は、Aの52回にわたる被告施設の利用状況及びその記録から、Aの被告施設内での活動状況を把握しており、それによれば、Aは、風船バレーのレクリエーションでは立ち上がることもあり、尿意を催すと自らトイレを探し、ものに掴まるなどして歩行を開始することがあった。前記のとおり、Aは、通所介護を重ねていくことにより、活動能力が回復してきたことが窺われ、さらに、布団で寝て上体から起きあがること、そこから一人でいざって移動することもできた。
 以上の諸点に鑑みれば、Aが、静養室での昼寝の最中に尿意を催すなどして、起きあがり、移動することは予見可能であった。さらに、居宅サービス計画書にあるとおり、Aは、視力障害があり、痴呆もあったのだから、静養室入口の段差から転落するおそれもあったといわざるを得ず、この点についても被告は予見可能であった。そして、本件事故時、被告従業員は、Aに背を向けてソファーに座っており、Aの細かな動静を十分に把握できる状態にはなく、さらに、Aの状態を確認することなく、他の被告従業員に静養室近くでの「見守り」を引継ぐこともなく、席を外して、玄関に移動してしまい、他の被告従業員は、本件事故が発生した静養室が死角となる位置で「見守り」をしていたのであるから、Aが目を覚まし移動を開始したことについても、気付く状況になく、当然、Aの寝起きの際に必要な介護もしなかった。  そうすると、本件事故は、被告が、Aの動静を見守った上で、昼寝から目覚めた際に必要な介護を怠った過失により発生したといわざるを得ず、被告には、本件事故により原告に発生した損害を賠償する責任がある。」

(5)認定損害額の主な内訳

後遺障害慰謝料350万円 障害慰謝料120万円

(6)外岡コメント

 事案自体は比較的単純ですが、被害について後遺障害がどこまで本件事故に起因するかについて大きく争われた点で医学論争の体を成しており、その点で特徴的なケースといえます。被告は、本件事故前にAは右股関節を骨折しており、本件事故前に右膝関節の屈曲拘縮が生じていたと主張しましたが、既往歴や介護日誌等から否定されました。職員も日頃見守りには注意していたことが窺えますが、一瞬席を立つ際に見守りの連携をしなかったという油断が命取りになったといえるでしょう。現場の立場からすれば、ここまで高度な配慮義務を課されるのでは酷に過ぎるということかもしれませんが。

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