



ヘルパーステーションでサ責をしています。うちの登録ヘルパーで一人、情報発信に熱心な職員がおり、SNSを用い就業環境の不備への不満や、ご利用者からのクレームを非難するような投稿をしています。
当人も個人情報やプライバシー保護の考え方は理解しているらしく、勤務先名を含め、個人名や個人を特定させる情報、地名等は出さないのですが、それでも好き放題に「あの利用者の息子はマザコンだ」等とつぶやきを投稿しているのを見ると、もし当事者に知られてしまったら…と不安になります。
何度か投稿を控えるよう促してきたのですが、その度にこのヘルパーは「私にも表現の自由があるんだし、業務時間外で会社に迷惑をかけない範囲であれば何も問題ないはずです。」と言い、反発します。それは確かに一理あるので、「くれぐれも個人情報漏えいには気を付けてね」と注意する程度に止まっています。
ある日、「今日入る予定だったご利用者、昨晩から熱が引かないとのことで急遽キャンセル。前回は咳もしていたし、もしかしたらコロナかも‥」「私も感染している可能性がゼロとは言い切れない。現場は命がけなのを法人本部は分かってない。こうした情報を私達が発信し、共有していかなければ」という投稿を目にしました。
現場職員の気持ちもよく分かるのですが、一方でこうした投稿が氾濫すると益々職員の不安を煽ってしまうようにも思われ、どう対処すべきか‥と悩んでいます。

悩ましい問題ですが、「職員の個人としての表現の自由」と、「情報統制による職場や関係者の安全管理」を天びんにかけ比較考量した結果、後者の情報統制を優先すべきケースであると考えます。
今回問題とされている投稿の内容は、「その職員がサービス提供したご利用者が発熱した」という事実と、「そのご利用者が新型コロナウイルスに罹患した可能性がある」という職員の推測部分で構成されています。
前者の「事実」については、本来、現場やケアマネージャーから当該情報がサ責等の中間管理者に報告され、事実確認をした上でこの情報を周知すべき関係者に伝え、場合によってはヘルパーに濃厚接触者としてPCR検査を受けてもらうといった対応を、雇用主である法人が率先してすべきといえます。
一方、後者の推測は、まだ陽性反応が出た段階ではないので、その職員の憶測の域を出ないものです。確かにコロナの可能性はあり、濃厚接触した以上自身も感染が疑われることは当然の考えであり、然るべき対応が必要になりますが、それは前述のとおり雇用主がすべきことであり、無軌道に不安をSNS上で吐き出して良いものかについては疑問です。
もし「法人が現場からのコロナに関する情報や相談等に対応せず、動いてくれない」といった事情があれば、そのことを社会に問題提起する意図で本件投稿のようなメッセージを発信することにも意義が認められ、いわゆる個人としての表現の自由が優先されるといえるでしょう。
しかし、法人として然るべく対応しているにも拘わらず、自身の推測を交え関係者をいたずらに不安にさせるような投稿をすることは、混乱を生じさせるため看過できません。職員の同僚や友人など、SNSで繋がっている親しい関係者は、情報を補足してある程度状況を復元し特定できる以上、個人情報を伏せてあっても同様です。
従って今回の投稿については、「余計な不安や混乱を生むことになり、万一個人が特定された場合はご利用者のプライバシー侵害等に繋がりかねないので、最低限、推測部分は削除すること。このような初期段階における事実に関する情報は法人が責任をもって受け取り対処していくので、以後はサ責である私にまず第一報を入れるようにしてほしい。」と指導することが妥当であると考えます。
こうした「表現の自由」と、「職員として服すべき規律」の衝突の問題は、コロナに限った話ではありませんが、今はコロナ関連でパニックを引き起こしやすい状況です。特に訪問系は個別に活動するため情報共有が難しく、不安に陥りやすい業態といえます。だからこそ雇用主たる法人が主体的に情報収集・配信に取り組み、各職員を安心させる取り組みが重要といえるでしょう。
改めて情報管理について規律を設け、全職員に周知徹底されると同時に、現場の声を参考に本部としての対応フローを見直す等されると良いでしょう。