デイサービスの管理者です。ご利用者の一人が、利用中に「体調が悪く、咳が出る」と言われ、早引けされました。
熱は平熱でしたが、その後は自宅療養し利用を控えておられます。
このご利用者の利用日に、他に4名のご利用者がおられましたが、2メートル以上の距離を保ち、マスクをして頂いており接触はありませんでした。ただ、職員一名が歩行介助等をしています。
これから病院でPCR検査を受けるとのことですが、医療機関が混んでおり結果が出るのは3日後とのことです。
今後、新型コロナウイルス(以下「コロナ」)の可能性について、情報共有をどこまですれば良いでしょうか。
保健所や介護保険課にまずはこの事実を連絡したいと思いますが、その旨他のご利用者やご家族、その他関係者にも広く知らせるべきでしょうか。
また、職員が陽性になったときは違いはあるでしょうか。
行政への対応はマニュアル化されておりその方針(可能性の段階で保健所等に連絡する)で良いのですが、問題は他のご利用者等に何をどこまで、いつの時点でお知らせするかですね。
コロナかと思ったら通常の風邪だった可能性もあり、毎回コロナの可能性を周知徹底していると(表現は悪いかもしれませんが)「狼少年」になりかねません。
さりとて万が一を考えると、慎重にならざるを得ず、日常業務の中で情報共有をどこまで徹底するかが難しいところです。
この点、「個人情報保護」の観点からは、感染拡大防止のために必要な情報を共有することは問題ありません。
「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」には本人の同意を得ないで個人情報を第三者に提供できるとされています(個人情報保護法第16条第3項第2号)。
勿論、氏名を伏せる等して個人を特定できないようにすればそもそも「個人情報」ではなくなるため共有、公表は自由です。
もっとも、仮に伏せたとしても「何月何日のご利用者(男性、80代)」等と情報を追加していくと特定のおそれがあるため、その点には注意が必要です。
では、今の時点(陽性か否か不明な段階)でどう動くべきでしょうか。
確たる正解はありませんが、時系列に沿って以下のような対応が考えられます。これは飽くまで私案ですので、参考としてご利用ください。
1 利用当日の対応
利用当日に体調不良を訴えた段階でコロナの可能性を考慮し、濃厚接触(入浴介助等、直接身体に触れる行為)は極力避ける。
速やかに全職員に「コロナの可能性があるご利用者が利用された」旨伝え、体調に異変等を感じた場合はすぐ申告するよう求める。
初期段階であるため、情報の流出と混乱を避けるため、当該利用者の氏名は原則として伏せる。
出勤を停止するか否かは個別に判断するが、一名の、当日歩行介助をした職員は濃厚接触者と判断される可能性があり、その場合は14日間自宅待機が保健所から求められることになる。
従って自宅待機が望ましいが、どうしても出勤せざるを得ない場合は、「一日の検温を3回に増やす、少しでも咳が出たら早退する」等いつでも中止できるよう配慮する。
2-1 同じ日にいた利用者に対して
問題の利用日当日もしくは翌日、他の4名の利用者・その家族およびケアマネージャーに、「一人のご利用者が、体調不良を訴え咳も出ているので早期退所された」旨を報告する。
その他利用時の状況(密集するようなレクをしたか、職員は当該利用者にどのように関わったか等)をできる限り細かく伝えるが、氏名の公表は控える。
現実問題として、氏名を伏せてもどの利用者が当該者なのかは分かってしまう。その場合であっても個人情報保護義務違反にはならず、感染拡大防止のため必要なことである旨事前に全利用者に説明し、認識を共通させておくことが望ましい。
これまでの経緯と併せて、今後の見通しも報告する(「3日後に検査結果が出たらまたご報告します」)。
2-2 同日利用しなかった利用者に対して
感染疑いの段階では、混乱を避けるため間接的な関係者に対しては敢えて告知しないという選択肢も考え得る。
もし「不告知が原因でコロナになった」という訴えが将来起きた場合、どれだけ感染拡大の予見可能性があり、その予防の措置を講じていたかが問われることになる。
例えば、当該利用者が朝から38℃の熱があり、咳症状がひどかったにも拘らず漫然と利用を継続させ、それにも拘らずこれを関係者に伝えなかったとすれば賠償問題になり得る。
しかし、状況に応じて都度適切な対応をしてきたのであれば、「まだ陽性と判明していない段階で全関係者に告知すべきではない」という判断にも合理性が認められ得る。
上記は損害賠償の一要件である「過失」に関する議論だが、被害を主張する者は「因果関係」(デイサービスのせいでコロナに感染したこと)を立証しなければならないところ、同居家族等からの感染可能性がある以上それは現実には困難であり、賠償が認められるハードルは非常に高いといえる。
いずれにせよ、事前に情報共有のルールを作り、全関係者と共通認識を持っておくことが望ましい。
3 陽性と判明した場合
速やかに全関係者に当該事実を報告する。保健所より一時閉鎖の指導がなければ、除菌等を徹底した上で営業を継続する(自主判断で閉鎖の選択肢も勿論考え得る)。
ホームページ等、不特定多数への告知の是非は法人の規模や立場にもより判断が難しい。もっとも集団感染など事態が深刻な場合は積極的に開示していくべきと考える。
4 陰性と判明した場合
この場合であっても、本件事実を知らせた関係者には陰性であった旨速やかに伝える。情報提供は「完結させる」意識が重要。
以上になりますが、職員が感染疑いの場合も基本的には同様です。
しかし職員の場合は、サービス提供者としての立場にありご利用者に対し説明義務を負います。
そこで、ご利用者の場合と異なり、情報はより詳細に伝えていくべきと考えます。
開示すべきか悩んだ場合は開示の方向性で検討すべきでしょう。