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リスクマネジメント・ご家族対応
タイトル コロナ関連:ご利用者からコロナを理由に賠償請求されるリスクについて
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質問

デイの管理者です。無自覚で感染している職員等がいたとして、万一デイの中で感染が広がり、ご利用者がコロナに罹患されたとします。

その場合、うちの衛生管理が不徹底であったとして、そのご利用者やご家族から入院費や治療費等の賠償を求められる可能性はあるのでしょうか。

回答

結論としては、万が一そのような賠償を求められたとしても法的に認められる可能性はほぼゼロであり、心配は不要といえます。 少なくとも日常的に起きる転倒や誤嚥等の事故の方がリスクといえるでしょう。

リスクマネジメントQ38「ご利用者のコロナ疑いの段階の情報共有について」でも触れましたが、基本的な賠償義務の考え方として、①どれだけ感染拡大の予見可能性があり、②その予防の措置を講じていたかが問われることになります。

これは、賠償義務認定の4つの要件(事実、結果、因果関係、過失)のうち過失の要件に該当します。

例えば、朝から熱があり咳も出るといった職員がいたとして、その者をコロナの可能性を疑わず、或いは人がいないからといった理由で漫然と勤務させ、その結果ご利用者を感染させたという場合には賠償責任があるといえます。 ①このまま働かせれば感染拡大するであろうことが予見でき、②その予防策として急遽休ませることは可能であったにも拘わらず、これを怠ったといえるからです。

しかし、コロナの厄介な特徴は「無症状でも感染している可能性がある」という点です。全く兆候が無かったにも拘わらず、気づいたら感染していたという場合には、①予見可能性も認められず、また②予防策としてその職員を特定して休ませることもできなかったといえ、結論として過失は認められず、責任はないということになるでしょう。

上記は損害賠償の一要件である「過失」に関する議論ですが、被害を主張する者は「因果関係」(デイサービス利用中にコロナに感染したこと)を立証しなければならないところ、同居家族等からの感染可能性がある以上、それは現実には困難であり、賠償が認められるハードルは非常に高いといえます。

一件、参考になる裁判例として、地裁レベルですが平成23年11月16日前橋地裁判決があります。

これは、公衆浴場を利用した後にレジオネラ肺炎を発症したことについて,公衆浴場を設置運営する会社の安全配慮義務違反が問われたケースですが、結論としてお風呂屋の損害賠償責任(3493万円の賠償義務)が認められました。

長くなりますが、参考になるので以下判決文の抜粋を掲載します。


「循環式浴槽においては、レジオネラ属菌がろ剤に溜まった有機物を栄養源として繁殖し、また、生物膜を形成するため、生物膜内で塩素消毒から守られて更に増殖し、ろ過器が原因となってレジオネラ属菌の感染を引き起こす危険が大きいことから、感染を防止するためには生物膜の発生を防止、除去する必要がある。

そこで、本件公衆浴場における循環式浴槽(少なくとも大浴場の浴槽)においては、浴槽水の消毒のみならず、ろ過器の前に集毛器を設けて毛髪等が混入しないようにし、かつ、浴槽水がろ過器に入る前に塩素系薬剤による消毒を行った上、週一回以上、ろ過器の逆洗浄又はろ剤の交換をして、ろ剤に溜まった汚濁物質を除去するとともに、ろ剤に塩素消毒を施して、生物膜を除去することが必要であって、これは、本件条例、本件要領及びこれを受けた本マニュアルの定めから明らかである。

しかし、被告は、大浴場の湯の循環ルートにおいて、集毛器を設置していなかったばかりか、これはもとより、減菌器をろ過器の前に設置していなかったため、ろ過器に湯が入る前に塩素消毒や毛髪等の除去をしておらず、月一回、ろ剤やろ過フィルターの交換洗浄を行ったにすぎない。

そうであってみれば、ろ過器や光明石温泉ユニットの逆洗浄を毎日行っていたとしても、ろ剤に溜まる有機物や生物膜を十分に除去することができず、レジオネラ属菌が生物膜に保護されてろ過器内で繁殖・増殖する状況が形成されていたものと考えられる。

その結果、原告が本件公衆浴場を利用した平成二〇年二月一四日ころには、大浴場のレジオネラ属菌は、基準値を大幅に超える一三五〇CFU/一〇〇mlに達し、感染を引き起こす程度に至っていたものと推認するのが合理的である。確かに、本件において集団感染は生じていないが、そのことをもってレジオネラ属菌が繁殖していたことを否定することはできない。」


いかがでしょうか。行政からの通達やマニュアルに沿って最低限の対応をすることがいかに重要かが分かります。

気を付けたいのが、転倒事故等で適用される民間の損害保険サービスは、コロナについては適用できないという点です(令和二年4月22日時点)。ですから、衛生管理を怠る等して集団感染という最悪の事態を招いてしまった場合は、極めて高額の賠償義務を負う可能性も0ではありません。


このご時世ですから、既に十分手洗いやマスク、接触回避等に神経を尖らせておられるとは思います。しかしこの見えないウイルスとの戦いは長期戦であり、人間ですからつい気が緩んでしまうということもあるかもしれません。

日々やることのチェックリスト、実践確認のリストを作り、定期的に確認する等して、取組みを継続していきましょう。