デイケアの職員です。うちもいつ閉鎖するかギリギリの状態で何とか事業継続していますが、「コロナウイルス感染拡大の影響に鑑み一次的に休業するかもしれない」とあるご利用者家族に話したところ、そのご家族から「勝手に休まれても困る。契約書にはそんなこと書いてないのだから、契約違反だ。うちの親がリハビリを受けられず廃用症候群になったら、責任取ってくれるのか」と問い詰められました。
確かに利用契約書には、「天災その他不可抗力の場合サービスを提供できない」といった文言が無いのですが、そのために責任を負うことがあるのでしょうか。やはり契約書や重説にそのような免責規定を入れる必要があるのでしょうか。
その心配は無用です。
「リスクマネジメントについてQ39」で述べたとおり、賠償義務が認められるには①事実、②結果、③因果関係と④過失の四つの要件を満たす必要があるところ、リハビリに行けなくなったため廃用症候群になったという主張は③の因果関係が認められません。
また今の情勢では休業することに「やむを得ない」といえる十分な事情が認められるところ、④の過失も認められないでしょう。
契約書については、確かに不可抗力の場合の免責規定が一般的な雛形に含まれているケースもあり、台風で外出困難な中ヘルパーがサービスを中止するといった場合には説明しやすくなり、無いよりはあった方が良いといえます。
しかし、当該規定が無いがためにそのような説明ができないということはなく、慌てて契約書を改定する必要はありません。
特に令和二年の4月以降は、民法改正により法第415条1項は次の様に定められています。
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。」
今のコロナ現象は同条項但し書きに該当するといえ、ご家族の主張はまず通らないといって良いでしょう。
問題は実際にどう返すか、ですが、こうした無理筋なクレームにも「まず受け止め、正論を示す」ことが基本的スタンスとなります。
相手も一時の感情で言っているだけであり、本気ではないと思いますが、もし返答を求められたような場合は
「お気持ちは分かりますし、ご迷惑をお掛けすることになり大変心苦しく思います。
ただ、法的な賠償可能性となりますと、一般法である民法が適用されますところ、私共が休業することで直ちに賠償責任に結びつくということにはならないかと存じます」
等と説明すると良いかと思います。
考え方として、「この人は今は無茶なクレームを言っているけど、コロナが終息したらまたお得意様に戻って頂けるだろう。今心証を害して顧客を失うのは得策ではない。それだけ精神的に余裕が無くなっているということなんだな」と思うことで若干こちらのメンタル疲労も和らぐのではないでしょうか。