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リスクマネジメント・ご家族対応
タイトル コロナ関連:自立型ケアハウスでどこまで感染予防策を徹底できるか
...
質問

自立型ケアハウス(軽費老人ホームC型)の施設長です。

わが施設は、60歳以上で身寄りがなく、自立した生活に不安を持つ高齢者を主に受け入れていますが、平均介護度は1程度で、皆さん基本的に自由に行動されています。

今頭を悩ませているのが、「外出制限やマスク着用等の予防策を、どこまで入居者に求められるか」という点です。

併設の特養であれば皆さん一人では動けないので単独外出などしませんし、ご家族等来訪者との面会制限も、他所も皆実施しているので例に倣ったところ理解を得られました。

またご入居者様一人一人にも、呼吸困難など例外的な場合を除きマスクを付けて頂いております。


一方、ケアハウスは基本的にご入居者の自立=自由を尊重せざるを得ないため対応に苦慮しています。

面会制限は実施しましたが、外出については届け出さえすれば認めており、「不要不急の外出は避けてください」とお願いするに止めています。

もし外出制限をすれば、「買い物に行けない。職員が代わりに行ってくれるのか」等々、クレームの嵐になることが想像できます。

マスクも、紛失したり使い切ってしまったり、そもそも「自分はコロナに罹らない」と根拠のない自信をもって着用を拒否する方もおり、徹底は難航しそうです。

一方で、当然のことですが衛生面を気にされ、居室から殆ど外に出ない方もおられます。


相変わらず仲良し同士で同じテーブルに座り、唾を飛ばしながら大声で会話をしているご入居者たちを見ると恐怖感に襲われます。距離をあけるよう、都度お声がけはさせて頂いているのですが、一部応じて頂けない方や、目を離すとまた元に戻ってしまう方がおられます。

どのようにケアハウスの規律を保ち、コロナ感染を防いでいけばよいでしょうか。

回答

「自立入居者の自由をどこまで制限すべきか」という問題ですね。

基本的な考え方として、一入居者の自由と全関係者の命をはかりにかけたとき、後者が圧倒的に重要であることは間違いありません。

万が一クラスターが発生しては元も子も無く、また一般的な予防策を指導・徹底しなかったことを理由に入居者ご家族等から賠償請求されるおそれもあることから、ケアハウスにおいてもできる限り感染予防策を徹底していくべきと考えます。


このような有事のときこそ規律が重要になります。まずケアハウスの規律である「運営基準条例」を見直しましょう(ケアハウスの場合は各都道府県が発出しています)。感染症予防についてどのような取り組みが求められていますか?

「感染症対策委員会の設置」、「感染予防のための指針の策定」が項目としてあれば、実質機能してこなかったとしても届出時にそのような指針等を作成し提出しているはずです。それを引っ張り出し確認してください。

次に、施設で定める「運営規程」を見ます。「感染予防策を施設が講じる」とあれば、その実施のための権限が施設に与えられていると解釈することができます。

こうした規定類を根拠として、急ぎ外出制限やマスク着用についてルールを作り、全入居者に周知徹底します。

外出制限は難しいところですが、一律全面禁止とするとストレスがたまり、施設内部で諍いやトラブルが増えることが懸念されます。

届け出制から「許可制」にすることが考えられますが、行き先について嘘をつかれては意味がなく、職員が毎回跡を付ける訳にも行きません。また、ご入居者のプライバシーや行動の自由にも配慮する必要があります。

そこで、例えば「誓約書」を作りサインして頂くことが考えられます。「パチンコ店等、三密の可能性がある場所には行かないことを約束します。帰設時には必ず手洗いし、検温し報告します。」等、遵守頂きたい項目を挙げその末尾にサインして頂くのです。

「マスクを誰が用意すべきか」は難問ですが、労働者と同じく「施設が着用を命じる以上施設が支給すべき」という考え方もあり得るところです。ですが、これは一入居者として共同生活を送る上での最低限の義務と解することも可能であり、原則として各人の自前の用意をお願いすべきかと考えます。


こうした行動の自由の制約は、一部反発も招くかと思いますが、「万が一クラスターになったら外出どころではなくなる。そうなる前に皆様の自主性と自律を信頼し約束ごとを共有したいのです」等と説得する他ありません。実際にクラスターになったケアハウスが報道・発表されていますので、そうした事例を取り上げても良いでしょう。

最後に、予防策に反発し協力して頂けない入居者については、やむを得ず厳格に対処し場合によっては契約解除する必要もあるかもしれません。そうなる前に、ご家族も巻き込みできる限りの説得をすべきですが、とにかくクラスターになってからでは手遅れなので、ここは心を鬼にして対処していくべきと考えます。