今回は施設の方必見の知識になります。早速事例を見てみましょう。
事例:救命しちゃいけないの?
脳梗塞のご利用者が食事中に意識を喪失し、心肺停止に陥りました。これは大変だと周りの職員が駆けつけ、慌てて異物吸引を行いましたが状態は変わりません。そこで以前習った通り、ご利用者を床に寝かせて心臓マッサージをしようとしたところ、看護師さんに鋭く「この方はDNR指示が出ています」と言われました。
DNRとは
まず「DNRって何ですか?」と。この一分一秒を争う緊急事態で改めて訊くわけにもいきませんし、あたふたして頭が真っ白になってしまうと思いますが、一体どうすればよいのでしょうか。
特に施設で働いている方、相談員の方に考えていただきたいのですが、そもそもDNRという言葉をご存知でしょうか。これはご利用者が施設や自宅で亡くなることが増えているこの時代において、今や必須の知識と言えます。言葉の定義を確認しましょう。
これは「do not resuscitate」というちょっと難しい言葉になりますが、DNRと呼んで「蘇生処置拒否」と翻訳されます。
心肺が停止して蘇生する見込みがない患者やご利用者に対して、患者本人やその家族の意向により、心肺蘇生措置(※これをCPRという)をしないことになります。DNRというのは、「心臓マッサージをしちゃいけない」ことだと理解していただければ大丈夫です。
DNR指示が出ている場合、どうすればいいのか
気道確保や人工呼吸、あるいは心臓マッサージ等を行わないこと、似た言葉としてDNARという言葉もありますが(※ここでは割愛します)、要するに介護現場でDNR・DNARと聞いたら「要注意だ」と思ってください。上記事例のように、普通なら当たり前に救命措置をしたり救急車を呼んだりする時、それをしないことですので一大事です。
上記の事例で言えば、DNR指示が出ているとのことなので、心臓マッサージをしではいけないですし、119番通報もしてはいけません。ではどうすればいいのかと言うと、正解は「主治医の先生に連絡する」です。
正しい対応をするために
何にしても事前にちゃんと話し合いをしておかないと、その瞬間が来たら頭が真っ白になってしまいます。現場の方、特に大事なのは相談員の方だと思いますが、まずは施設入居時にご利用者の家族と話をして、診療情報提供書や、病院の退院時に貰う資料に「DNRを希望です」と書いてあるかどうか、それを見落とさないようにしてください。
今まで当たり前のように心肺蘇生をしていたわけですが、DNR指示のあるご利用者にしてしまうと、場合によってはトラブルになる可能性もありますので、DNR・DNARという言葉は頭の片隅に入れておきましょう。
看取り・DNR・ターミナルケアの違い
看取りやターミナルケアなどいろいろな言葉がありますが、どう違うのかここで簡単に説明すると、看取りというのは終末期における介護全般のことです。要はソフトランディングしていくイメージでしょうか。日々を指します。
一方でDNRというのは、あくまで心肺が停止した時の限られた突発的な事態のことです。心臓が止まっている時、異常事態にDNRという言葉が出てきます。だからこそ混乱しがちですので、しっかりと事前準備が必要です。
さらに似た言葉で、ターミナルケアという言葉があります。これはケアとは言っていても医療看護のことです。看取りは介護ですが、ターミナルケアは医療になります。
看取り・DNR・ターミナルケアの違いをしっかり把握しておきましょう。
ACPとDNR
ACPという言葉がありまして、これも終末期になる方が多い特別養護老人ホームなどでは必須の言葉になりますが、「Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)」と言って、厚労省では『人生会議』と訳されたりします。
意思決定能力が低下する場合に備え、ご利用者本人とその家族が医療者や介護提供者などと共に、予め終末期を含めた今後の医療や介護について話し合うことや、意思決定ができなくなった時に備え、本人に代わり意思決定する人を決めておくプロセスです。
例えば、今はまだ80歳で元気だけれど、年を経て病気になったらこんな終わらせ方をしたい、エンディングに向けてこんな生活をしていきたいなどを事前に話し合い、方針を決めるイメージです。まだまだ現場では浸透していないかもしれません。
要するにACPは、元気なうちから終末期までの全体のビジョンや計画を指し、DNRは、末期時で突然心肺が停止した時に、敢えて救命措置はしなくてよいという意思表示になりますので、図で表すとACP中にDNRがあることになります。
ここまで正確に覚える必要はありませんが、DNRは緊急時の話ですから、事前にこの知識がないとその時には頭が真っ白になってしまいます。また、受け入れの時にDNR指示を見逃してしまうと大ごとですから、しっかり知識として押さえておく必要があります。
覚えるための『知ったかフレーズ』
ここまで出てきたアルファベット3文字の言葉を、「知っている」とドヤ顔するために開発したフレーズです。これを言えば周りに差をつけられるかもしれません(笑)
「ご利用者、ご家族とは十分にACP(※人生会議)を重ねて、いざというときにCPR(※心肺蘇生措置)すべきか迷わないよう、DNR(※蘇生措置拒否)の有無を確認しておくべきだよね」
これだけ聞くと「どこのIT業界のベンチャー企業のお話ですか?」となりますが、こういったセリフにすると整理して覚えられるかもしれないので、試しに何度か復唱してみてください。それでもし「DNRって何?」と訊かれたら、今回学んだことを説明してあげてください。