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リスクマネジメント・ご家族対応
タイトル ご利用者から受けた物損につき家族に請求できるか
...
質問

訪問介護員です。食事や排せつ介助中、認知症のご利用者に抵抗された時に、スタッフの服が便や尿で汚れ、使用できなくなった場合、物損としてそのご家族にクリーニング代等を請求できるでしょうか。できればもう使いたくないので代わりの衣類を買う代金を払って頂きたいのですが…

回答

本件は、簡単な様ですが、法律に則り解決しようとすると実は非常に難しい問題です。結論から言いますと、相談者の方が入っているサービスの形態により、ご家族に請求できるか否か結論が違ってくるといえるでしょう。通常の形態、即ち家族のご自宅にヘルパーが出張する場合で、かつサービス中にご家族が同じ室内にいる様な場合には最も請求がしやすいものと思われます。

一方で、サ高住や住宅型有料など、実態として施設に近い場合は家族の監督の度合いも薄まるため、ご家族に責任を取ってもらうことは法理論的には困難となります。

何故このような考え方となるかというと、まず出発点として、認知症のご利用者には責任能力が無いため、ご本人に賠償を求めることはできません。そうなると次に責任を負うのはその家族(身内)かというと、そうスムーズには事が運ばないのです。この問題を解決する該当条文は民法714条ですが、そこにはこう書いてあります。

前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

ご家族に賠償を求められるか否かは「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」にかかっていますが、ここで実際問題として、ご家族がどの程度ご利用者の介護に関わっていたかが問題となります。その様な考え方から、冒頭の違いが生じてくるのです。

もっとも、残念ながら認知症のご利用者を預かり介護するという契約形態である以上、余程のことが無い限り利用者からの被害の賠償をご家族に求めていくことは難しいといえるでしょう。具体的な裁判例等はまだ無い様ですが、対抗策としては契約書中、ご利用者の不始末により物損等が生じた場合はご家族に弁償して頂く旨明記することが考えられます。もっとも、それでは利用者側の権利を過度に侵害するとして、無効を主張されたり行政から訂正するよう指導されるおそれも高まるという懸念があります。いずれにしても簡単に割り切ることができない、難しい問題です。